悪魔のささやきと魂の売り方vol.2
人間は努力するかぎり迷うもの
ゲーテの戯曲『ファウスト』で、誘惑の悪魔メフィストは主(神)にこう言う。「人間どもは、あなた(主)から与えられた理性をろくなことに使っていないじゃないか」。これに対して主は「常に向上の努力を成す者」の代表としてファウスト博士を挙げ、「今はまだ混乱した状態で生きているが、いずれは正しい道へと導いてやるつもりだ」と答える。
メフィストはファウストの魂を悪の道へと引きずりこめるかどうか賭けをしようと主に持ちかける。主は「人間は努力するかぎり迷うもの」と言い、その賭けにのる。こうしてメフィストはファウストを誘惑することとなる。
魂を売らなければ、己が生きる意味が無くなることもある
ドイツの著名な作家トーマス・マンの息子クラウン・マンの小説『メフィスト』は1981年に映画化された。
『メフィスト』で描かれているのは第二次世界大戦中、ドイツの劇団の話。ナチスの要望に応じた芝居を演じなければ役者たちは反逆者と見なされ投獄される。これを嫌がった役者の多くはフランスやアメリカに亡命する。しかしドイツ語しか話せない役者は不本意ながらもナチスを賞賛する芝居を続ける。「芝居は言葉が命だ。パリに行こうがニューヨークに行こうが、役者はできない。それは死ね、と言われるようなものだ」。
まさに命を賭してナチに魂を売り、芝居を続けようとする役者の台詞には「だれのために、何のために仕事をするのか」迷った挙げ句の選択がある。
まあ、一般的な仕事をしていて、こんなドラマチックな迷いや選択は無いのだけれどね。自分の中のメフィストは、ちょっと意識していたほうがいいと思う。