“版下(はんした)”の話
“版下”は線版・文字版・写真版で成り立つ
“版下”というのは、印刷をするための原稿になるもの。デザインの指定に下がって、“トンボ”の付いた台紙には罫線を描いたり、線画のイラストを貼り付けたりする。これは線版と呼ばれていて、文字は“トンボ”の付いた別のものに貼り付ける。これは文字版と言う。同様に写真は写真版に貼り付ける。文字版や写真版は透明フィルムや厚手のトレーシング・ペーパーを台紙とすることが多く、その台紙にトンボシールを貼って使っていた。線版・文字版・写真版
を重ねて作業をするので、透明か半透明のものでなければならなかったのだ。
いろいろな技が必要だった“版下”
罫線を描くといっても、いろいろな太さがある。指定されている太さの罫線を描くために、いろいろな種類のペンを自分で作る必要があった。いつでも指定された太さの罫線が描けるように、ペン先をカットして太さの違うものを用意していたのだ。常に同じ太さを保てるように毎日砥石を使って調整したものだ。黒く塗りつぶす場所があるときは筆を使う。溝引き定規、溝引き棒、筆を駆使して直線をずらしながら塗っていく。ランダムに塗ってしまうとムラになることがあるので、この方法でベタ塗りをしていた。製版フィルムの特性として濃い赤色には反応するので、溝引きが苦手な場合は赤いシートを使う人もいた。それぞれが、自分なりの工夫をしていたのだ。
“版下”を理解してデザインに役立てる
“版下”は職人の仕事と思われがちだが、“版下”を理解することでデザインの仕事に役立つことが多い。DTPの時代になった今は、自分で道具を作ったりすることはなくなったが、“版下”の知識は絶対に必要なのだ。例えば、仕上がりサイズで写真やベタをカットする場合は、角トンボの外側にあるトンボ(外トンボ)まで、絵柄を入れておかなければいけない。断裁で少しでもずれてしまうと、写真が足りなくて白い余白が出てしまうことがあるからだ。また、自分のデザインをDTP作業する人に渡す際も、この知識があれば指示の仕方が違ってくることもあるだろう。
“版下”のエピソード
“版下”の時代に、誰でも簡単に“版下”ができるようにと“版下作図機”を開発していた会社があった。その開発に関わったのだが、これが全く使い物にならないという代物。時間短縮と一定のクオリティを保つために作られたはずが、時間短縮どころか倍以上の作業時間がかかってしまう。まず斜めの平行線が描けない。斜めの平行線は、厚手のトレーシングペーパーに描き、それを“版下”に貼り込んでいったり、ベタ塗りをする機能がなかったので、自分でやらなければならなかったりと面倒なことが沢山あった。大きさも今のDTPとはほど遠く、普通だったら20人分くらいの机が置ける部屋に作図機一台とオペレーターが一人と、かなりのスペースが必要だった。こういう時代があったから、今のDTPがあるのかもしれないが、当時はいい迷惑だと思ったものだ。